２００６年夏、一人の高校球?に日本中が魅了された。早???藤佑樹。駒大?小牧との決勝では延長１５回引き分け再試合を投げ?き、全?制覇を成し遂げた。早大を?て、１０年ドラフト１位で日本ハム入り。プロでの道のりは決して順風?帆ではないが、１２年末に判明した右肩?節唇損傷を?り越え、一?ずつ復活へ?みを進めている。３０?になった今、“あの夏”以前の「何者でもなかった頃」について、聞いてみた。（取材、構成?加藤　弘士）

　「最初、プロ野球に入った時の目標は、大きいものがたくさんありました。でもそこにフォ?カスしすぎて、本?自分が野球をやっている意味を忘れていた?がするんです。野球を?しむこと。なかなか思うような?の動きができなかったり、勝てなかったりすると難しいんですけど、僕はやっぱり、野球が本?に好きなんです。打者と??勝負して、抑える。１軍にいても２軍にいても、それを地道に?けていくことが大事だと、そう思っています」

　?藤へインタビュ?するのは６年ぶりだ。この６年間は彼にとって逆境に次ぐ逆境だった。右肩?節唇損傷。懸命なリハビリ。?線復?も、思い描くような結果が得られない日?―。心が折れそうな夜もあったに違いない。しかしこのオフ、?藤は快活な表情で鍛?に取り組んでいた。?い男だな、と思った。

　「高校時代は修業でした。自分の原点です。でもあの日?があったからこそ今、こうして野球ができている」

　夏の頂点に立つ以前の、「何者でもなかった頃」が知りたくなった。

　群馬?太田市出身。生品中では軟式で?東８?に進出した。地元の進?校?太田高への進?を視野に入れていたが、名門?早?からの誘いに心が動いた。推薦入試に合格し、越境入?する。太田から?分寺の早?キャンパスまでは２時間超。?初は電車通?だった。

　「朝５時起きで７時半ぐらいに着いて。夜は午後１０時ぐらいまで練習するじゃないですか。?宅したら０時半。始?で?て、終電で?る日もありました」

　早?は都?の私?最難?の一角。野球部だからといって特別扱いはない。

　「勉?が本?に大?で。?時は偏差値７６かな。僕も中３の時は勉?、できる方だったんで（笑い）。太田高校の偏差値は６８ぐらいあったんです。でも早?に入ったら、７６のヤツがいっぱいいる（笑い）。授業は同じ一般のクラス。ついていけず、要領も分からない。７月のテストでは赤点ばっかり。でも年度末のテストで赤点が一定?あると、留年になるんです。家に?って勉?するのは無理なので、電車の中でやらなきゃいけない。でも疲れているし。ル?ルでは座ってはいけない電車に座っちゃって、?てしまうこともありました」

　ル?ルって？　大きく目を見開き、?えてくれた。

　「早?の１年生部員にはル?ルがあるんです。電車で座ってはダメ。車?は一番前に?る。片足重心はダメ。つり革を使ってはダメ。?帽をかぶる。移動中は絶?に?け足。（最寄り?の）南大??からグラウンドまでは１キロ以上、絶?、ダッシュです。大?でした」

　?用も多い。困難を同級生みんなで?り越えるからこそ、一?感が?す。

　「絆、あると思います。ケンカもしましたけど、野球というものが?倒的にあるから、みんな目標を同じにしていける。高校野球って仲間の大切さをすごく感じられますよね。みんな野球が好きだから、『レギュラ?になりたい』との思いがあるから、同じ方向に向かっていけると思います」

　?機は高２の夏。神宮での西東京大?準決勝、日大三?と?言した。

　「１―８で７回コ?ルド負けした試合です。僕が８点取られて…」

　この夏、?藤は初めてエ?スナンバ?を背負った。

　「その頃はＭＡＸも１４２キロぐらい出ていた。『この調子なら、甲子園に行けるな』と思っていました。ところが初回からボコボコに打たれて…。『甘くない』と思いましたね」

　最後の夏が終わった３年生は?泣していた。

　「先輩たちが大好きだったので、めちゃめちゃ勝ちたかった。みんな?をかけてくれました。『?年は俺たちの代わりに甲子園、行ってくれ』みたいな。でも一人だけ『こんなんじゃ甘い』と言ってくれた先輩がいたんです。高屋敷さんだけが…僕から背番?１を“取られた”先輩です」

　高屋敷仁投手。春まではエ?スだった。最後の夏、背番?１０の２番手になった。

　「高屋敷さんだけは『?藤、お前はこのままじゃダメだ。もっともっとチ?ムを引っ張っていかなきゃいけないぞ』と?しいけれども、熱い言葉を下さった。僕は今でもその言葉を?えています。心から感謝している。先輩の夏を終わらせて、本?に申し?なくて。でもその?持ちが僕を?くさせたと思っています」

　３か月後。神宮第二での秋季東京都大?準決勝。?藤は日大三を６安打完封。２―０で勝利し、リベンジを果たした。客席からはあの日、?に暮れた先輩たちが?援を送ってくれた。

　「?角を突かなきゃいけないというのもあって、その試合では死球も多かった。ケンカをするぐらいバチバチになった試合です。勝った瞬間、高校生が短時間で成長できたのは、努力だけじゃなくて?持ちの面が大きいと感じました。その後も秋の神宮大?では駒大?小牧に負け、翌春のセンバツでは?浜に負けました。僕にとっては一つ一つの負けが、すごく大きな意味があった。悔しい負け方をして、その都度??心を?り立てられたんです」

　?史的死?が繰り?げられた０６年夏から１２年。高校野球を取り?く環境は?わった。あの夏、甲子園で?藤が投げた９４８球は、この夏の金足農?吉田輝星の８８１球よりもずっと多い。

　「僕自身はあの??があったからこそ、今こうして野球を?けられると思っています。球?制限についてどうするべきかというのは、僕の中で答えはありません。でも議論されることはすごくいいことだと思います。泥だらけで頑張っている姿を見たいファンの方もいるだろうし、選手の??を考えることも大事。どっちも大切な文化です。僕も大きなけががありましたが、ここで終わってしまったら、何も言えなくなる。肩をけがしても、まだまだ頑張れるんだということを示したい。だからこそ野球を諦められないというのは、ありますね」